kiroku

冬の陽の短さ

マリアッチ・アガベ

 

昨日の夜、市民文化ホールでラテン音楽を聴いた。小ホールの中は熱気が立ちこめていて、それは歌い手と観客の熱だった。

体が自然と動く。知らない曲だけど、一度フレーズを覚えたら一緒にハモりたくなる。

通訳してくれる人は数回しか出てこなかった。だから曲はスペイン語で紹介される。スペイン語がわかる人なんて全くいないと思うけど、それでもスペイン語で、彼らの言葉で説明されたのはよかった。声の抑揚と顔色で言葉がわからなくてもわかる。本当の意味が知りたければあとで調べればいい。

スペイン語は前からなんとなく好きな言語だった。あまり聞き慣れない音だし、でも、メキシコだとまたちょっと違うのかなとか考えた。わたしが聞くスペイン語はスペインが舞台の映画だから。

「星をなくした人」はタイトルが好きだと思った。悲しい、マイナー(短調)な曲だと思っていたら、曲の持つエネルギーが強かったことが意外で、これがまたよかった。

 

後ろの方に座り、前に座る人たちの様子を観察する。陽気なものからムーディーなもの、さらには沖縄の曲が会場に届けられる。体を揺らし、手を動かし指揮者になる人。みんな音楽にのっていた。みんな楽しそうだった。

私も目をつむって音楽に身を任せる。熱い空気に包まれ、見たこともないメキシコを想像する。

 

あー。わたしも大きな声で歌いたい。歌って、心を解放したい。

自由になりたいと思ったのは、音楽の力を感じたからか。 

 

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久しぶりに博物館に行った。小さくてこじんまりしたところだけど、

わたしの元気の源で、展示される化石とか骨格標本をみるとどうしてもエリザベス・ハンドの「冬長のまつり」を思い出してしまって胸が熱くなる。時間をとってまた読みたい

 

宙に浮いている鯨たちをみて遠くなる

 

 

春。

 

北と西と、山に囲まれている地いる。

車で1時間も走れば麓の方まで近づく距離にはいるけれど、近づかなくても他に山を遮るような大きな建物はないから、マンションの庭からも会社からもどこからでも見える。

それが心の癒しというか、仕事で外に出た時に建物の間からまだ雪の残る山が見えると、今日もこの地を愛せると思えるのだった。

 

昨日は春だった。

桜は満開。公園に花見しに行ったら桜と一緒にこぶしの白い花が咲いていた。

「この国は桜が咲くのは遅いから、むこうのひとが桜を見ている時に、こっちはこぶしの花を見る。って演歌で言ってた」

こぶしは至る所に生えていて、その大きさにも圧倒される。へー、ってぼけーとした返事をして、それぞれ適当にたのしく歩いた。

この地に来てから季節を楽しんでいる。

食も景色も気温も、すべて変わっていく。お店の人は旬な食べものを教えてくれる。ゴールデンウィーク明けはアスパラみたいで、ほんとみんな口を揃えて言うから少し笑えてしまった。

いいね、アスパラ。

 

わたしを支えてくれる自然たち  今日も明日も永遠に守って

 

うどん

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うどんの写真ってあんまり撮ったことないけど、良い。

 

佐綾と千草(前回の:卒業 - kiroku)がうどんを食べに行く話書きました。時間が前後しますが、卒業式より前の話です。↓

 

 

 ある日気づいたことがある。

 私とマヤの組み合わせはよくあって、マヤと佐綾の組み合わせは絶対だけど、私と佐綾でどこか出かけたことが今までにあっただろうか。学校で二人になることは勿論ある。遊びにとか、ご飯を食べに行くとか、正直したことないんじゃないかって、ふとそう思った矢先だった。

「今度一緒にお昼食べに行こうよ」

 廊下を歩いていたら佐綾と会って、思い出したかのようにではなく、このことを伝えるために来たかのようにはっきりと食事に誘われた。どこに行こうかと尋ねたら珍しくもう決まっているらしい。

「うどんって、普通のうどんでいいの?」

「もちろん」

「佐綾はああいうところ行かないかと思ってた」

「わたしも普通のJKだよ」

 佐綾はマヤと付き合い始めてから色々な言葉を使うようになった気がする。私たちは土曜日のお昼に、近くのイオンで待ち合わせることにした。

 

 昼時のフードコートはとても混んでいて、家族連れで溢れていた。特にうどん屋は安いし人気があるから大変だ。最後尾に並んだがいつお盆を取れるのだろうと前にいる人の数を数えていたら佐綾に「千草はやさしいな」と言われた。

 待っている間私たちは色々な話をした。

「佐綾はさ、マヤのどういうところが好きなの?」

「全部好きだよ。強いていうならわたしは少し意地が悪いからなかなかキスしないんだけど、ずっと待ってるからね、そのあたりとてもかわいいよ」

「なんだ、惚気か」

「千草が聞いてきたんだよ」

「そうだった」

 佐綾は普通の人は言うのが恥ずかしそうなことも平気で言うし、マヤのたまに外で出る好き好き攻撃(私はそう呼んでいる)にも真摯に答える。そういうところがなんだか爽やかでいいなと思う。

 他にもたくさん二人のエピソードを聞いた。マヤからもらった誕生ケーキの底が焦げていたけど頑張って食べた話、罰ゲームで人生初めて一人でピザ屋に行って大量に注文してしまった話、マヤとゲームセンターで撮ったプリクラの数々。二人の未来はこれからも楽しいことだらけなんじゃないかと思った。

「あ、佐綾はうどん何にするか決めた?」

「わたしは釜揚げ」

「同じだ。すみません、釜揚げうどんの並を2つお願いします」

 

席について二人で「いただきます」と言ってから待ちに待ったうどんに箸を伸ばす。湯気がほくほくたつうどんを生姜とネギをたっぷり入れたつゆにつける。

「うん、おいしい」

「寒いときの釜揚げはサイコーだ」

「生姜はあればあるほど入れてしまうな。マヤともここ来たことある?」

「 いや、まだない」

「珍しいなー。真っ先に来そうだけど」

「マヤ曰くうどんは家で食べたいらしい。寒い日の夜にわたしの一人暮らし先で、鍋から食べるのがいいとのこと」 

「へー…。なんだかマヤらしいな」

「だからこの楽しみはとっておくことにしたんだ」

「そっか。…じゃあ、またうどん食べに行きたくなったら私と行こう」

「ありがとう。千草と出会えてよかった」

その後佐綾は黙々とうどんをすすった。私もつられてうどんをすすった。

 

 

 

うどん

 

卒業、その後

 

マヤ、佐綾、千草の卒業式後を友人が書いてくれました。

こちら↓

それから - 無響サイレン

 

わたしの手を離れて描かれる彼女たちが愛おしいーー…

ちらし寿司いいね。

科子、有子、幸さんの話も合わせてお読みください

 

続編もどんどん書いていきたい気持ちが溢れてきたので、これからもたくさん登場するかもです。

 

 

卒業

 

 今日は高校の卒業式。この日くらい晴れてくれればいいものの、わたしの高校は何故かいつも雨だ。今年も雨だった。式が始まる前の教室では既に涙ぐむ生徒もいて、みんな3年間通ったこの学校との別れに想いを馳せていた。わたしもその中の一人になるんだと思っていたが、予想以上に未来が楽しみになってしまい、一ミリも涙が出ない。というのも数時間前。夢のような出来事があって、本当に夢なんじゃないかと何度も自分の手の甲をつねってみたが、そのひとに「夢じゃないよ」と言われてしまった。
 わたしの目の前にいる少女はわたしが同じ質問をしていることに飽きたのか、恥ずかしいのか、うつむきながらつま先で土をいじっている。雨でぐずぐずになった土が彼女の上履きの白を汚していく。何回も聞いてごめんという気持ちはありつつも、何回でも聞きたい自分がいてやっぱり聞いてしまう。

 

「本当に、付き合ってくれるの…?」
「うん」
「佐綾のこと、3年間ずっと好きだった」
「うん」
「佐綾とこれからも一緒にいたいと思った」
「うん」
「佐綾とおいしいもの、食べたい」
「わたしも、そう思ったから応えてるんだ」

 

 卒業式前に、なんで二人して濡れているんだろう。

 

 吹奏楽部の伴奏に合わせて仰げば尊しを全員で歌う。

 指揮台に立って指揮をしているのは佐綾だ。長い髪を一つに縛って、雨をすった制服が肌にはりついている。佐綾は校内の合唱コンクールで毎年指揮者をしていたから今回も指揮に選ばれた。指揮をする理由は自分の声が好きではないかららしい。わたしは佐綾の声も、自分の声が好きじゃないという佐綾も好きだ。

「マヤ、泣いてんじゃん」

「うん。なんか泣けてきた」
「わたしさ、女子校でよかったなーって思うよ。こうやって歌う時なんて特にさ」
「千草と同じクラスになれて良かった」
「…お前はいつも急だな」

 体育館から出ると後輩たちが一輪ずつ花をくれた。部活動をしていた子たちの周りには素早く後輩が集まってきていて、後輩は泣いていた。なんてかわいいんだろうと見ていたら、遠くに先に外に出た佐綾の姿が見えた。手には花と指揮棒が握られている。わたしたちは最後の教室に向かって歩く。

「佐綾かっこよかったよ」
「そう思うのはマヤだけだよ」
「だったらいいな。ライバル減るし」
「ライバルもなにも、いないよ。今日マヤと約束したから」
「佐綾……やばい、めっちゃ好き。キスしていい?」
「そういうことは家でしてくれ」
「千草いたの?」
「ずっといたよ。マヤは浮かれすぎだ」
「3年間見てきたがマヤのこういうところは多分一生治らない」
「千草聞いた?3年間ずっと見ててくれたみたい!」
「わたしは2人が恋人じゃなかったことに驚きだったよ」
「付き合わなくても、このままずっといれると思ったからな」
「佐綾のそういうところ好きなんだよね」
「わたしもそんなお前たちが好きだよ」

 

 教室に着いたわたしたちは担任の先生話を聞き、最後の最後にまた歌を歌い、この学校で3年という月日を共に過ごしたことを思い返した。もう会うことはない人たちもいる。また会うことになるだろう人たちもいる。
 わたしはクラスメイトと一人ずつ握手したい感情になったから、握手をした。手を握るというのはハグをするより愛おしい。そんなことを言ったら千草に笑われた。

「ごめん、お待たせー」
「マヤ遅いよー。校門で記念撮影するんだろう?」
「千草はなんだかんだいつも待ってくれる」
「だと思ってた!」
「…ほら、早く行かないと場所がなくなるぞ」

 

 待って、と足早に教室を出て行こうとする千草の制服の袖を掴む。振り向いた千草は一瞬驚いた顔をして、その後少し笑いながらすっと手を差し伸べてくれた。右手をわたし、左手を佐綾に。三人は円になるように手を繋いだ。
 今日この日まで一緒に過ごしてくれた人たちへ。また三人で円になれる日が来ることを祈って。

 

「マヤ、佐綾、卒業おめでとう」
「千草もおめでとう」
「みんな、卒業おめでとう」